単刀赴会たんとうふかいとは、

「単刀をもって会に赴く」

を略した四字熟語になります。

 

 

「単刀赴会」は赤壁の戦いの後に、

劉備と孫権がもめにもめた荊州での領土問題を解決すべく、

 

関羽と魯粛が話し合った会見のことをいうわけです。

「三国志演義」単刀赴会までの経過

赤壁の戦いの際に、

多くの役割や負担を担ったのは孫権陣営でした。

 

しかし赤壁の戦いで勝利した劉備は、

「漁夫の利」荊州南部の取得に成功しています。

 

 

これにどうしても納得ができなかったのが孫権であり、

劉備と長きに渡って領土問題としてくすぶり続ける事になります。

 

ただ領土を持っていない劉備としても、

荊州南部の領土確保は譲れない問題だったわけです。

 

そして劉備は、

「益州を取得できた暁には、

きちんと荊州はお返しするので、

 

孫権殿にはそれまで我慢をして待ってほしい!」

と頼み込んだことで、この問題は一旦落ちく事となります。

 

 

またこの裏側には、魯粛の協力があった事は、

忘れてはいけない事実ですね。

 

 

魯粛は当初「天下二分の計」を説いていた人物でもありますが、

 

曹操の南下時期の早さと、

あっさりと荊州が陥落したことによる状況の変化から、

 

諸葛亮と同様の「天下三分の計」へと

シフトチェンジした人物でした。

 

 

 

だからこそ独断で劉備と同盟を結び、劉備と孫権を引き合わせた結果として、

赤壁の戦いで勝利を収めることに成功していますし、

 

 

今後も曹操の脅威を退ける為には、

 

「劉備が最低限の力を所持している事が必須」

だと感じていたわけです。

 

 

だからこそ荊州四郡に追加する形で、

かつて周瑜が取得にした江陵であったりと、

劉備へと新たに荊州領土を貸しつけた状態にしたという感じですかね。

 

 

これにより孫権の気持ちの中とは裏腹ではあったものの、

 

絶大な信頼をしている魯粛の言葉だったからこそ、

孫権は劉備へ大幅に譲渡した形にしたわけです。

 

 

 

そして劉備の言葉の通り、劉備は益州奪取へと動き出し、

 

最終的に劉璋を降したことで、

益州を手に入れることに成功したのでした。

 

 

そして劉備の益州取得を、

「待ってました!」と言わんばかりに孫権から使者が訪れ、

 

「以前に約束した通り、

荊州奪還の件をお忘れなく!」と・・・

 

この時に孫権の使者としてやってきたのが

諸葛瑾(諸葛亮の兄)だったのは余談です。

 

 

ただこの時の劉備の返答は以下のようなものだったといいます。

「涼州を奪ったら荊州をお返しします」と・・・

 

 

これに堪忍袋の緒が切れた孫権は、呂蒙に命じ、

長沙郡・桂陽郡・零陵郡の三郡へと攻撃をしかけたのでした。

 

 

このように両者の関係が非常に悪化していったことで、

 

現状の打開する為に開かれたのが、

関羽と魯粛による「単刀赴会」だったのです。

「三国志演義」単刀赴会

おそらく一般的に知られている「単刀赴会」は、

三国志演義の描写でしょう。

 

多くの兵士が配置されていた魯粛陣営に、

堂々とした面持ちで、太刀を持った関羽が訪ね、

 

関羽に従っていたのは周倉ただ一人だったというものです。

 

 

そして関羽と魯粛の二人の会談が始まるわけですが、

 

魯粛がゆっくりと口を開き、

「長沙・桂陽・零陵の三郡をお返しください!」

と単刀直入に話を切り出したのでした。

 

 

これに対して関羽の側にいた周倉が、

「土地は人徳を備えた者になびくものであり、

本来だれかの所有物というものではない!」

と二人の会話を遮るように言葉を返したわけです。

 

 

この言葉を聞いた関羽は周倉を叱って追い出したわけですが、

関羽の心境を理解した周倉は退出して、船で待っていた関平へと合図を飛ばしたのです。

「いつでも撤退できる準備をしておけ」という・・・

 

 

そして一人で敵のど真ん中に残っていた関羽は、

魯粛との話をうまくはぐらかしただけでなく、

 

魯粛を無理やりに掴んで、

自身が船を停泊させていた場所まで付き添わせました。

 

 

もともと魯粛はもしも会談がうまくいかなかった時は、

 

「関羽を殺してしまおう!」と計画しており、

多くの伏兵を事前に隠していたのです。

 

ただそれらの伏兵に気づいていた関羽は、

魯粛を人質にすることで危機を乗り越えたわけですね。

 

 

「三国志演義の単刀赴会」は、

魯粛が関羽にいいようにあしらわてしまったという構図で描かれていたわけです。

 

ただ妥協することも大事だと考えていた劉備は、

その後に長沙郡・桂陽郡・零陵郡の三郡を孫権に返還しています。

 

「正史」単刀赴会までの経過

「単刀赴会」が開かれるまでの流れは、

三国志演義の話と大体同じと思ってもらって問題ありませんが、

 

改めて軽く説明しておきます。

 

 

赤壁の戦いから劉備の益州奪取に成功し、

その後に孫権が諸葛瑾を派遣して交渉を繰り広げるものの、

 

「涼州を奪ったら荊州を返す」

という劉備の発言がきっかけとなったことで大きな亀裂が一つの形となってあらわれます。

 

呂蒙・魯粛に命じて、

長沙・桂陽・零陵の三郡に兵を差し向けて奪ってしまったのです。

 

完全に荊州を全く変え隙がない劉備に対して、

孫権は武力行使に出たわけです。

 

 

そして荊州全体を失う事をおそれた劉備は、

自ら出陣して荊州へと向かいます。

 

また三郡を取り返すべく、関羽も江陵から出陣したわけですが、

関羽の進撃はあっさりと魯粛にふさぎ込まれてしまっています。

 

そして両陣営は戦況が膠着化する始末・・・

 

 

そんな中で曹操が漢中進出に成功したことで、

劉備は大きな危機感を抱きます。

 

そこで劉備は孫権と改めて和議を結ぶ為に話し合いを行ったっ訳ですが、

それが現在でいうところの「単刀赴会」になります。

「正史」の単刀赴会

「呉志」魯粛伝では、

「単刀赴会」について次のような記録が残っています。

 

「お互いに兵馬を百歩離れた場所に待機させていた。

そして関羽・魯粛は互いに太刀だけを持って対峙した」と・・・

 

 

そしてそんな中で始まった会談ですが、

 

仁義と真逆の立ち位置にいた劉備について、

魯粛は毅然たる態度で非難しています。

 

「かつて困っていた劉備殿の為に領地を提供した。

 

現在の劉備殿は益州も手に入れておられる。

それなのにかつて約束した荊州の三郡すら返さないとは何事であるか!!」

と魯粛の怒声が空に響きます。

 

 

 

魯粛の口から発せられる正論と魯粛の毅然な態度に、

「関羽は返答に困った」と書かれています。

 

また会談では終始にわたり、

魯粛が有利に話を進めていったといいます。

 

 

「三国志演義の単刀赴会」とは真逆ですが、

 

そもそも魯粛は傑物と呼べる人物ですし、

 

その上で正論を述べれる方の立場であることからも、

魯粛が関羽を言いくるめた事は当然の結果なのかもしれませんね。

 

 

最終的に湘水を境界線とすることで話が決着し、

孫権は長沙郡・桂陽郡を正式な所有としています。

 

ちなみに孫権が呂蒙に命じて奪わせていた零陵郡は、

妥協した形で劉備へと返却しています。

 

つまり孫権が長沙郡・桂陽郡を、

劉備が零陵郡・武陵郡・南郡を領有することで話がまとまったのでした。

 

 

 

「ただ関羽が僅かの者達だけを引き連れ、

 

大勢の兵が控えていた魯粛の待つ場所を訪れ、

その上で会談をした」という事実は、

三国志演義だけではなく、正史にも記載されている話です。

 

会談では魯粛に弁舌によって抑え込まれたということも事実ですが、

関羽が豪胆な胆力(度胸)の持ち主であったことも覚えておきたいですね。