漢詩を紹介する中で、この名文は外せません。

曹操の短歌行たんかこうですね。

 

三国時代を代表する人物である曹操ですが、

文学の発展にも大きな貢献をした人物だというのは忘れてはいけません。

 

はっきり言って曹操が後世に及ぼした文学面での影響は計り知れません。

 

 

そして曹操が残した「短歌行」は、

 

「人生の短さを嘆き、だからこそ楽しめる時に楽しむべきだ」

といって詠まれたもので、今でも多くの人達に愛されているものとなります。

 

 

また三国志演義にも「短歌行」が採用されており、

曹操が赤壁の戦いに望む際に酒を飲みながら詠んだといった設定ですね。

 

ちなみに映画のレッドクリフでもこの「短歌行」が詠まれています。

 

 

ただ曹操の「短歌行」の本当の意味は、

赤壁の戦いに望む際に詠まれるようなものではなく、

 

多くの優れた人物を求める曹操らしい漢詩となっています。

短歌行(其ノ一)

對酒當歌 人生幾何(酒にむかえしてはまさに歌ふべし。人生幾何いくばくぞ。)。

譬如朝露 去日苦多たとえば朝露の如く、はなはだ多し。)

慨當以慷 憂思難忘してまさこうすべきも、幽思ゆうし忘れ難し。)

何以解憂 唯有杜康(何を以てか憂いを解かん。杜康とこう有るのみ。)

 

青青子衿 悠悠我心青青たる子のえり悠悠たる我が心。)

但為君故 沈吟至今だ君が為ゆえ、沈吟ちんぎんして今に至る。)

呦呦鹿鳴 食野之苹呦呦ゆうゆうとして鹿は鳴き、野のよもぎふ。)

我有嘉賓 鼓瑟吹笙(我に嘉賓かひん有り。しつしょうを吹かん。)

 

明明如月 何時可輟明明たること月の如きも、いずれの時かきや。)

憂従中来 不可断絶うれひは中より来たり、断絶すべからず。)

越陌度阡 枉用相存みちを越へみちわたり、げてってわば、)

契闊談讌 心念舊恩契闊談讌けいかつだんえんし、心に旧恩おもわん。)

 

月明星稀 烏鵲南飛(月るく星にして、烏鵲うじゃく南に飛ぶ。)

繞樹三匝 何枝可依めぐること三匝さんそういずれの枝にかるべき。)

山不厭高 海不厭深(山は高きをいとわず、海は深きを厭わず。)

周公吐哺 天下歸心(周公はを吐きて、天下心をせり。)

-翻訳-

酒を飲む時は、大いに歌って過ごそう。

なんせ人生とは非常に短いものなのだからね。

 

強いて言えば、人生は朝露のようなもので、

月日はあっという間に過ぎていくものだ。

 

憤慨することで気を晴らそうとしても、

胸に秘めている心の憂いを消し去ることはできるものではない。

 

なら心の憂いをどうしたら取り除くことができるのだろうか?

実は簡単な話で、その手段が酒を飲むことなのだよ。

 

 

青い衿の服を着た若者達よ、

私は優れた才能を持った君達を想いつつ待ち続けている。

 

鹿がゆったりと鳴いて仲間を呼び、共にヨモギを食べるのと同じように、

気が合う客人の訪問があれば、私は琴を奏で、笛を吹いてもてなそうと思っている。

 

 

明るく輝いている月を手ですくえないように、

優れた人物を仲間にすることは非常に難しいものだ。

 

そう考えるだけで、心の底から悲しみが沸き上がってくるもので、

その気持ちは断ち切れるようなものではない。

 

だけど君ははるばる遠い所から、わざわざ私に会いに来てくれた。

久しぶりにでも酒を酌み交わし、かつての誼を温め直そうではないか!

 

 

星が少なく見える程に月が明るい時に、かささぎは南へ飛んでいき、

樹々の上を三度ほど回って、休む為の枝を探し回っている。

 

山がどれだけ高かろうとも、海がどれだけ深かろうとも、

周公は食事中でも来客があれば、食べた物を吐き出してまでもてなしたそうだ。

 

だからこそ人々は、周公に心を寄せたのである。

短歌行(其ノ二)について

曹操が詠んだ「短歌行」は、

三国志演義や映画のレッドクリフでも採用された短歌行(其ノ一)が有名ですが、

 

実は「其ノ二」も存在しています。次の漢詩ですね。

周西伯昌、懷此聖德。三分天下、而有其二。

修奉貢獻、臣節不隆。崇侯讒之、是以拘繁。

後見赦原、賜之斧鉞、得使征伐。

為仲尼所稱、達及德行、猶奉事殷、論敘其美。

 

齊桓之功、為霸之首。九合諸侯、一匡天下。

一匡天下、不以兵車。正而不譎、其德傳稱。

孔子所嘆、並稱夷吾、民受其恩。

賜與廟胙、命無下拜。小白不敢爾、天威在顏咫尺。

 

晉文亦霸、躬奉天王。

受賜圭瓚、秬鬯彤弓、盧弓矢千、虎賁三百人。

威服諸侯、師之所尊。八方聞之,名亞齊桓。

河陽之會、詐稱周王、是其名紛葩。

 

 

この漢詩を訳すると、

「周の文王は天下の三分の二を有した」といったような所から始まりますが、

 

今回は「其ノ一」についてのみ見ていこうと思ってます。

 

 

ただ「其ノ一」が有名すぎて、

「其ノ二」の存在を知ってる人も少ないので、軽く紹介してみました。

 

興味ある方はご自分で調べてみるのも一興かなと思いますね。

曹操の才能の高さを垣間見れる漢詩

最初にも少し述べましたが、

三国志演義にも採用されている「短歌行」ですが、

 

人材を求める曹操の詩が、赤壁の戦いに望む時に、

酒を飲みながら「短歌行」が詠まれるというのはなんか不思議に思いませんでしたか!?

 

 

そもそも「短歌行」は、もともと赤壁の戦いとは関係なく、

人材マニアである曹操が優れた人材を追い求める気持ちを表してるだけですしね。

 

ただ一つだけ補足しておくと、

三国志演義で赤壁の戦いの前に詠まれたというのも完全に否定できていません。

 

 

 

後は次の部分ですが、ここは表現の仕方が非常にうまくて、

個人的に好きな所ですね。

月明星稀 烏鵲南飛(月るく星にして、烏鵲うじゃく南に飛ぶ。)

繞樹三匝 何枝可依めぐること三匝さんそういずれの枝にかるべき。)

 

星が少なく見える程に月が明るく、かささぎは南へ飛んでいき、

木々の上を三度ほど回って、休む為の枝を探し回っている。

 

 

「烏鵲」とは日本でいうカササギのことですが、

このカササギという鳥は、必ず毎年巣を作る鳥です。

 

 

またカササギは「異変を察する鳥」ともされており、

 

気温の変化に敏感であり、

風が強い年には高い所を避けて、低い所に巣を作ると言われています。

 

 

 

そのようにカササギは、予知とも言える能力に優れており、

 

昔よりカササギが低い所に巣を作ることは、

政治を行う者の徳が天下に響き渡っており、平和の象徴とされていました。

 

 

そのカササギが低い枝に止まって巣を作らない、

もしくは南へ飛んでいったというふうに記載されているのは、

 

まさしく平和な時代ではなく、

世の中が乱れているという事が組み込まれていると考えられます。

 

そんな世の中だからこそ「短歌行」の中で、

優れた人物を登用することの重大性についてカササギを用いてこのような表現をしたのでしょう。

 

 

またカササギ(優れた人物)が仕えるに値するような人物がいないから、

 

「南に飛んでいき、樹々の周りを三度回りながらもなかなか枝に止まらない」

といった意味合いも含ませているわけで・・・

 

 

こういう点を見るだけでも、

何故に曹操が「建安の三曹七子」と言われるかが分かるというものですね。